アニメ感想「妄想代理人」を見て思うこと。見る価値あったが結構へこむ。

2016年の年の瀬に「妄想代理人」というアニメを見ていました。

もともと今敏監督の作品は見たいと思うもなかなか手を出しづらく、やっと見た「パーフェクトブルー」は噂にたがわぬ傑作であったものの、TVシリーズはレンタルが面倒だし…なんて思っていた。しかし妄想代理人は定額動画配信サービスの「dアニメ」に含まれていたのでやっと見ることになりました。まずは簡単な感想。

OPで度胆を抜かれる

最初に流れるOP。笑ってる登場人物と洪水やら海底やら焼け跡の風景の組み合わせ。この時点で「このアニメは思ったよりヤバいやつなんじゃないか?」と思い始める。視聴意欲がかなり湧いたのは確か。

序盤

悩みを持った人々が少年バットに襲われる様が描かれる。大人気のマスコットキャラ・マロミの作者にして最初の被害者・月子、事件を追う刑事、トラブルを抱えてネタを探すルポライターの川津、特徴が一致したため少年バットだと疑われる少年とその家庭教師……「ああ、それぞれの話が絡み合っていくのか」と考える。

この辺では「少年バットは本当に存在するのか?妄想の産物じゃないのか?」なんて思っていたのだが、4話ラスト、蛭川が襲われたあたりで話が一つの転換をむかえる。殴られた蛭川が少年バットを捕まえてしまうのだ。同じような展開に飽きかけていたところで「おお!こっからどうなるんだ!」と興味をそそられる。

中盤。

中盤は意味不明でわけわからんと思う人が多そう。

5話「聖戦士」。自分をゲームに出てくる聖戦士だと思い込み人を襲っていた少年。その妄想世界に入り込み話を聞く刑事たち。ゲーム世界のような描写に乗り気の若手刑事・馬庭とついていけない中年刑事・猪狩のギャップに笑う。

6話。模倣犯だと自供した少年の言葉からホームレスのおばあさんが最初の現場を目撃しているとにらんで事情聴取。それと蛭川の娘の話。ここで少年バットがまだ存在していることが明らかに。この話は5話が軽かったぶんやけに重く感じた。

7話。若手刑事・馬庭が「追い詰められた人の前にどこからでも現れる」少年バットを追う。荒唐無稽に見える話を追うが、模倣犯の少年も少年バットに殺されてしまう。「この先どうなるんだよ」と改めて思わされる。

8話。死にたがっている三人組の珍道中といった感じ。コメディのように見せて最後でもう死んでるっぽい描写がありホラー。

9話。主婦の井戸端会議で少年バットの話にどんどん尾ひれがついていく様が描かれる。でも全体としてはギャグ。小噺みたい。

10話。アニメ会社のダメ社員・猿田の話。その使えなさに視聴者のこっちもイラついてくる。この話は構成としてどんな意味があるんだろう?

終盤

なんだかんだで話がまとまっていく。

11話。中年刑事・猪狩の奥さんが増長した少年バットと対峙する。毅然とした態度で少年バットを退けるが、当の猪狩は現実から逃げ出してしまう。「これはマジで収拾つかなくなるのでは」と思う。

12話。少年バットと戦う馬庭。妄想世界に入り込んでて「こいつダメなんじゃ……」と思うも月子の父親に話を聞き事件解決の糸口をつかむ。

13話。最終回。少年バットだった黒いものが街を襲う中、奥さんが猪狩を妄想世界から連れ戻し、馬庭が事件の真相を話す。月子が自身の過去と向き合い、エンディング。「おさまるところにおさまったな」と思うがラストにループを予兆させる演出。

全編通してどうなのよという話

まとめると以下のようになる。

追い詰められた月子が生み出した「少年バット」という言い訳のための妄想。それが現実化して言い訳を求める人たちを襲っていく。肥大化した妄想はついに街を飲み込むまでになる。しかし最終的に月子は自身の過去を受け入れ(言い訳をやめ)、少年バットは消滅する。しかし言い訳を探す人が存在する限り、また少年バットは現れるかもしれないのだ。

終わってみれば話としては簡単ではないか?納得できないとしたら「妄想が現実化して街を破壊する」という部分だけだろう。

で。この作品は原作にして総監督の今敏が内容について語っているので(下のリンク)特別考察する必要もないと思う。

アニメーション監督 今 敏 のオフィシャル・サイト

少し引用すると、

「ある人が言い訳のために通り魔事件を自作自演するが、実際にはいない筈のその犯人が次々と凶行を重ねて行く。が、ある時その犯人が実際に捕まる。しかしその犯人すらも妄想代理人に始末され、犯行が続けられる」
犯行が続けられてばかりでは話に終わりが見えないので、おそらくは主人公が最後に妄想代理人と戦わなくてはならなくなる、筈。一応はオーソドックスな話 のスタイルで進めるつもりなのでそうなるだろう。ますます「パーフェクトブルー」みたいだが、同じ人間が考えていることなので致し方あるまい。それに 「パーフェクトブルー」は幻想が殺人を犯したように見えるが、実際に犯行に及んだのは実在する人間ということであった。妄想代理人は純然たる妄想の産物で ある。

以上が最初に考えられていたアイデアノートに書いてあった一文らしい。本人も言うように話のつくりとしてはオーソドックス。

へこむ理由

で。なんでへこむかという理由。また引用する。

 こうした背景とは別に、いわゆる作品本意の企画意図ももちろんある。一言で言えばこういうことだ。
「言い訳探しに躍起になっているやつをぶん殴って笑おう」
「やつ」というのは特定の誰かということではなく、人間誰もが多少なりとも持っている部分というようなことだが、「言い訳探しに躍起になっている」人間は 実際に増えているような気がする。与えられた仕事をするより、それを「どうやったらしなくて済むか」、その理由を懸命に探している人が多い気がする。

さらに引用。

「一所懸命働くのはイヤだが、立場と評価は欲しい」
なんて図々しいんだ(笑)
近頃はもっと低いレベルになっているかもしれない。
「そこそこのポジションでいいから自分の居場所が欲しい」
そういう生き方もあるだろうが、私はこういう人とは仕事を一緒にしたくないとは思う。

まさに自分。「言い訳をしてきた人間がその言い訳に追い詰められる」という話で、なおかつその解決方法は「ちゃんと向き合う」しかないわけで。

まあ新年を前に心を入れ替えろってことか。今年は頑張ります。

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